目が覚めました
おはようございます、やたらと可愛らしいその声で私の意識は覚醒した。覚醒したといっても、どんよりとした起き抜けの頭の重さは抜けきらない。
グラグラグラと、手を額に当ててぐらついていた、そんな私に与えられたのは優しげな「おはよう」の声などではなく。遠慮容赦のないプニッとした柔らかなパンチ。

「お目覚めくださいませ、縁の君」
「…えにしのきみ?」
「貴方様のことですよ、さま。目を覚ます時です」

再度放たれたその柔らかな連続パンチを甘んじて受けていれば、呆れたような溜め息が。パンチラッシュを放っていた小さな狐は、やれやれといった風に首を振るのであった。

「まったく…寝起きがよろしくないということは聞いておりましたが。ここまでとは思いませんでした、まだ術が取れきれていないのか、もしくはただの怠け者か」
「酷い言われよう、可愛い顔して毒舌なのね。ところで、そういう君は何者なのかしら」
「おっと、名乗っておりませんでしたね。こんのすけ…私めはそう呼ばれております」
「……こんのすけ…」

可愛らしい見た目に似合った名前だと、そう呟けば何故かパンチを頂いた。可愛いは褒め言葉ではないそう、実は男の子だったとかそういうあれなのだろうか。

「ではまず、貴方さまには近待を選んでいただき…」
「え、説明とかそういうのは」
「省きます」

大人の事情です。

この刀はどうとか、あの刀はだれが持っていたとか。そういった説明は全て右から左へと流し、適当なひと振りを手に掴む。そうすれば、こんのすけの一声によって何かが光とともに生み出された。

彼の名は―

「山姥切国広だ。……何だその目は。写しだというのが気になると?」
「いや、被っている布が白いなと」
「綺麗とかいうなっ」

言ってねえ、という言葉は彼の華麗なる布隠れ(ヒラリ、と布を大きくひらめかせてからすっぽりとそれに包まれる技。小学生の頃とかやんちゃ時代を過ごした人ならヒーローごっこでやっていそう)によって、かき消されるのだった。