近待の彼は恭しく肩肘ついて頭を垂れて、新たな仲間がやってきたと告げた。その顔のドヤり具合よ。中々の結果を出してきたのだろう、その功績を見せたくて見せたくて仕方がないようである。
緩慢な動きで立ち上がれば、たったそれだけの時間も惜しいのだろうか、「失礼します」と私を抱き上げた(プリンセスホールド式で)。
「長谷部くん。そんなに急いでどうしたんだい?そんなに褒められたいのか。よしよし、いい子いい子」
「いえ。失礼ながらこうでもしないと、鍛刀部屋にいつたどり着けるかもわかりませんからね。主の機動力は亀並みですから」
「本当に失礼だな。お前は本当にへし切長谷部なのか」
他所の長谷部はもっとこう…優しいというか主煩悩というか。かけてくる言葉が違う気がするのだが…。
「他の審神者は主とは違ってもっとしっかりとしてますからね。俺たちがしっかりせねば…と、着きました。ここからは自分の足で歩いてください」
「うい」
辛辣な言葉は投げかけても、投げ落とすような雑な下ろし方は彼はしない。そっと、廊下に足がつくのを確認すると、長谷部は先導するように鍛刀部屋のふすまを開け放った。そこでは白い後ろ姿が、鍛刀部屋に揺らめく炎をじっと眺めていた。
「此方が新たなひと振り、鶴丸国永です、主。さ、挨拶を」
「…ん?もしやそれは私に言ってるだろう。子どもじゃないんだから、きちんと挨拶ぐらいできるわ。…え、と、鶴丸国永?」
「ん?…ああ、俺の名前を呼んだか?ということはお前が…俺の主か」
後ろ姿が応えるようにして此方を振り向いた。その瞬間、一瞬にして空気が変わったのを肌で感じとる。なんだろうか、この感じ。なんとなく、彼を見た瞬間、胸が締め付けられるような切なさを。そう、切なさを感じた。不思議なものだがよく考えれば、きっとそれは彼の白く、儚い印象から起きたものなのだろう。そうに違いない。ぎゅっと胸元を握り締めて、目を閉じた。少しだけ動悸がしていた。
「…どうかしたか?主」
「え、ああ…ごめん。ちょっとぼうっとして…た。あの」
「ん、なんだ?どうした」
「いやなんだって…その、近いんですが」
もう少し距離があったと思ったのだが、いつの間にか金色に輝く双眸が目の前で此方の瞳の中を覗き込んでいた。こんなに整った顔に近寄られたのは初めてだ。他の刀剣男子たちでもここまで近くに寄ってきたことはない。そっと肩を押し返そうとすると、今度はその手を取られた。なんだ、なんなんだこれは。
「……おい、貴様…近いぞ」
我慢ならずに長谷部が怒る。鶴丸はそんな長谷部には気にも留めないばかりか少し面白そうに笑みを浮かべた。
「ほう…、何がだ?」
「距離に決まってるだろう」
「そうか?」
「そうだ」
人間の身体ってのは難しいものだなあ。なんて笑いながら一歩後ろに下がる。そしてうんと一回頷いた。
「そうだな。挨拶ついでに思ったことを告げていいか?主」
「なんですか」
「主がこの部屋を訪れた瞬間、俺は思ったんだ。まるで雪のような白さだと。それは近くでみても遠くから見てもだ。とても綺麗だ。だが、いつか溶けて消えてなくなりそうな一瞬の儚さもある。まあ、うん。それもまたひとつの美しさではあるのかな」
「なっ」
「儚く融けるようなことは、ないでほしいなあ」
うんうんと鶴丸はうなずき、何事もなかったかのように、険しい顔の長谷部の横を通り勝手に自由行動を始めようとする。その時の私は、彼を制止することはおろか、どういう意味でそんなことを告げたのか、問い返そうと思わず、「お前が言える立場か」と心の中で独り言ちていたのであった。。
新人、現る。