誰かが皿を割る音で目を覚ました。すでに時刻は深夜だというのに、シュテンドウジ主催の宴会が終わる気配はない。酒飲み英傑たちの夜はまだまだこれからのようだ。
身体を起こし、周囲の気配を探る。自分のお伽番の姿は、探さずともすぐ隣にあった。
「主殿…目を覚ましてしまったか。今宵のシュテンドウジ殿たちの宴は殊更に騒がしいからな。一言注意をしてこよう」
一言で済むとも思えないが、そう言えばモモチは軽く笑う。
「ふっ…主殿の眠りを妨げたのだ、軽い罰ぐらいはな。お伽番である、俺の役目だろう」
モモチタンバの言うお伽番の役割に、罰を与えるは入ってはいない。行かなくていい、ここにいてくれと伝える。たまには彼らも羽目を外したいときがあるはずだ。
「…たまには、か。たまに程度ならいいのだがな。貴殿は彼奴らを甘やかしすぎるきらいがある、むろん誰に対してもだが…。」
仕方がない主殿だ、とモモチはいう。だがそこが良いのだと、また彼は言った。匙加減を調整してやらねばな、という言葉は聞かなかったことにしよう。
「ああそうだ。甘やかしついでに、俺も頼みごとをしてもいいだろうか。なに、そう大した話ではない。主殿は何もしなくてもいい」
モモチがいつものように足音立てず、手を伸ばさなくともすぐに触れられる距離にと近づいてくる。
布団の中で身体を起こした状態でいた自分の身体を、彼はそっと包み込むように抱きこみ、そして倒れこんだ。
「添い寝がしたい。ああ、服は綺麗なものだ、貴殿が寝ている間に寝間着に着替えておいたからな。…端からその気だったと?そんな訳があるはずないだろう、主殿の許可なく布団に潜り込むなど…サイゾウくらいだ」
そういえば、以前サイゾウがお伽番であったときのことだ。暇だ、寂しいと言って彼はいつの間にやら自分の布団の中で一緒に寝ていたことがあった。ぬくぬくと幸せそうな顔でいたのが堪らなくかわいかったので覚えている。一人寝の夜は忍でも寂しいのだと、サイゾウは言っていた。つまりはモモチもそういうことなのだろうか。
「…寂しい、か。そうではない…といったら嘘になるな。………ああ、そうだ。寂しい、近くで主殿の体温を感じながら、この手で触れられないことが、俺はたまらなく寂しいんだ。他の誰かでは意味がない、貴殿だからそう思う。かつての俺が、そのようなことを思うことはなかったはずなのだがな」
モモチが自嘲気味に笑う。腕を首の下に通して、枕に頭を乗せた。
「構わんのだろう?特に何も言わないということは。…おやすみ、主殿。安心しろ、次に貴殿が目を覚ますときは朝だ。心穏やかに眠りにつくといい」
モモチの体温は実はそれほど高くはない。少しひんやりとした温度をすぐ傍に感じながら、目を閉じることとしよう。
やがてシュテンたちの宴の音は遠く感じはじめ、意識は夢の世界へと旅立つのであった。
我儘になるのだろうか/モモチタンバ